バルブメーカー大手のキッツが、水産分野のコンサルティング事業に参入する。茅野工場(長野県茅野市)に設置した独自プラントでは無投薬による陸上養殖が難しいと言われるマダイの飼育期間が238日を数え、ビジネスの可能性が現実味を帯びてきた。岡田毅史事業開発部長は「養殖の素人だけに、徹底した自動化にこだわったことが成功につながった」と手応えを口にする。同社はこれまでの成果を生かし、プラント設計から機材選定、施工管理までを支援する陸上養殖事業へのトータルサービスに乗り出す。2016年度に市場参入し、年間20億円のビジネスに育てる。
水産ビジネスとの出会いは12年にさかのぼる。シンガポールの見本市に水浄化技術を出展した際、魚を入れた水槽の水をなんとかしてほしいと相談されたことがきっかけとなった。水産需要は高まりを見せるものの、天然資源の不足から、世界中に出回る魚の約半数は養殖が占め、これからは養殖比率の増大も期待できる。
養殖の形態は海面にいけすを設けるスタイルが主流だったが、近年は欧米を中心に陸上の養殖施設で魚を飼育する閉鎖型の流れが拡大している。台風などの被害を回避でき、生産量を安定化させられるほか、消費地近郊の養殖によって鮮度の高い魚も提供できる。消費者に対してトレーサビリティーを確保する安全・安心面のメリットも大きい。16年にブラジルで開催されるリオ五輪の選手村で提供される食材にもASC(水産養殖管理協議会)認証の養殖魚が全面採用されることが決まった。
同社は13年3月にタイで稚エビ養殖、同年12月からは日本でヒラメ養殖の実証試験をスタートした。マダイの養殖に取り組んだのはことし3月に入ってからだ。陸上養殖の難しさは魚から排出されるアンモニアをいかに無害化するか。バクテリア分解による生物処理が一般的だが、事業者に専門知識が必要な上、日々のオペレーションも求められる。
遠隔監視システムの画面 |
そこで目を付けたのが、電気的に生成したラジカル反応を使ってアンモニアを取り除く水循環の仕組みだ。これにプラントの自動制御と遠隔監視を合わせた「スマート養殖」システムを開発した。茅野工場には生物処理とラジカル反応処理それぞれの養殖プラントを設置し、マダイの飼育が進行中だ。
17日時点で生物処理プラントの飼育期間は238日、ラジカル処理プラントは168日が経過した。水産業界では100日が長期飼育の目安と言われている。生存率も8割を超え、水質や病気由来のへい死例もない。マダイの陸上養殖例はあるが、高密度のケースは極めてまれ。岡田部長は「これからは具体のビジネスモデル構築を進めていく」と先を見据える。
同社によると、世界各地で新設される陸上養殖プラントの市場規模は主要なエンジニアリング会社の売上げベースで135億円。これが50年度には5000億円規模に達すると予測する。国内は半導体工場の閉鎖に伴い、植物工場などに転用するケースもある。そうした空き工場を養殖プラントとして活用する事業化の切り口も考えている。
9万種類に及ぶバルブ製品を年2200万個規模で供給する同社にとって、スマート養殖への対応は製品の販売戦略ではない。あくまでも長年培ったバルブ技術ノウハウを生かしたトータルビジネスを描く。プラントの構想から設計、施工、運営までにかかわり、エンジニアリング、マネジメント、コンサルティングをワンストップで提供する方針だ。
閉鎖型陸上養殖プラントのイメージ |
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