2015/12/03

【建築学会】シンポ「芸術と技術-その融合を目指して」 内田祥哉氏×川口衞氏×斎藤公男氏


 日本建築学会は11月25日、東京都千代田区の日大理工学部で構造家の内田祥哉=写真右=、川口衞=写真中央=、斎藤公男=写真左=の3氏によるシンポジウム「芸術と技術-その融合を目指して」を開いた。同大お茶の水キャンパスで公開している建築模型の展示会「模型で楽しむ世界の建築」に合わせて開催した。アーキテクチャーとエンジニアリングが統合した「アーキニアリング・デザイン」の役割やアーキテクトとエンジニアのあるべき姿について多くの学生や業界関係者を前に議論した。

 冒頭、「アーキニアリング・デザインとは何か」をテーマに講演した斎藤氏は、「ある想像力をどう実現するかが『技術』、あるポテンシャルをどう美しく想像するかが『芸術』であり、その2つを融合することに大きな意味がある」と強調し、建築模型の展示を通じて両者の連続性を示したいとの思いを語った。内田氏は「構造形態と建築デザイン」と題し、戦後から現在に至るまでに自身が手掛けた設計において構造がデザインとなる過程を紹介した。
 これに対し川口氏は建築模型の役割に言及。スケッチやパースと異なり3次元的な実質を持つ模型は「工法をはっきり示すことで『絵空事』ではない公正な価格競争の基盤になる」と指摘した。その一方で「模型が完成すれば、その下達(かたつ)で建築が実現できるという錯覚が生じる」という模型の問題点も指摘し、建築家の「スケール感の欠如」がその根底にあると訴えた。
 特に、欧米の建築教育を受けた建築家は技術的な知識を学ぶ機会がないためにスケール感が欠如し、多大なコストが必要な建築デザインが増加しているとし、「小をもって大を推し量るな」というガリレオ『新科学対話』の一節を紹介。「模型が完成しても本当にそれが成立するのかを考える余地がある」とした上で、「スケール感を把握し、新たな建築の可能性を拓くきっかけにしてほしい」と呼び掛けた。

日大お茶の水キャンパスで公開している建築模型の展示会「模型で楽しむ世界の建築」

 講演を受けたてい談では、司会を務めた斎藤氏が2人に対し、建築界に対する社会的な信用の低下が懸念される中で建築家とエンジニアとしてなすべき役割を問いかけた。
 川口氏は「(エンジニアは)一本の部材の意味からしっかりと理解しなければならない」と力説した。計算尺を使った設計で求められた膨大な労力が不要になり、より根本的な問題を考える時間が生まれているからこそ、「設計に使ったコンピューターとソフトをただ信じるだけではなく、それをより良く使うための方法を考える必要がある」と語った。世界的にアーキテクトとエンジニアの間に大きな賃金格差が生じている現状も指摘し、「コンピューターとソフトがあれば誰でも構造設計ができると考えられたために賃金に差が開いたが、日本でも同じ状況が起こりつつある」と懸念を表した。
 内田氏は「工法や構造といった意匠以外の要素を考えない建築はうまくいかない」とアーキテクチャーとエンジニアリングを融合する重要性を改めて指摘した。その上で台風、凍害、地震といった日本の環境が持つ特殊性に言及し、「地震のない国は日本に求められる技術が分からない。建築はローカルに考えるべきもので、海外の建築家を招いてもうまくいかない」とした。このため「そうした課題を乗り越えることに構造家としての矜持がある」としながらも、建築教育においては「日本の地域性に合わせ、意匠・構造・設備を含む独自の建築教育をやらなければならない」と語った。
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