利昌工業株式会社本社(大阪市北区堂島2-1-9)は、日本万国博覧会迎賓館や料亭の南地大和屋などを手掛けた彦谷邦一が設計を手掛け、1959年に完成した。前面に張り巡らされた手作り感のある化粧タイルが美しく、向かいに建つ近代建築の中央電気倶楽部と呼応しつつ、小作品ながら周辺に現代的な大規模ビルが林立しているにもかかわらず、色あせず、まったく古さを感じさせない。
なによりこの建築がすばらしいのは、前面道路から数mセットバックして建っており、一定の空地を設けていること。後に周囲に建った新しいビルもこれにならってセットバックしており、通りの“良い抜け感”を生み出している。総合設計制度が創設される70年のはるか前から将来を見据え、市街地の環境改善に取り組まれていたことに感服する。
加えて、約60年前にできたこの建物に耐震補強を施し、利昌工業がいまも大事に使用しているのもすばらしいことだ。利昌工業は電子材料や電気絶縁材料、モールド電気機器などを手掛けるグローバルなメーカー。かつてはFRP製のカプセルハウス「フローラ」も製造販売していた。少し話がそれたが、この作品はまさに設計・施工・施主が三位一体となった建築であるといえる。
この作品は、大阪府建築士会で54年から開催している大阪建築コンクールにおいて、第6回大阪府知事賞を受けている。
当時の資料には、審査委員長を務めた村野藤吾の講評が載っており「狭あいな市街地の敷地に建つデザインの香気を放つ作品」と、彼らしく表現。「建築技術の限界を良く見極めて好ましい内外の環境をつくることに成功している」と高い評価を与えている。
大阪にお越しの際は、まちづくりを先導し、周辺の環境に良い影響を与えた先駆的な事例である利昌工業株式会社本社をぜひご覧いただきたい。
*利昌工業株式会社本社=1959年完成。規模はRC造地下1階地上4階建て延べ1273㎡。
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