建設コンサルタンツ協会(JCCA)の長谷川伸一会長=写真右=と日本建築家協会(JIA)の六鹿正治会長=写真左=による「『美しい国づくり』をみんなの力で」をテーマとした対談が15日、東京都渋谷区の日本建築家協会で開かれた。両会の会長対談は2007年に第1回、14年に第2回が行われ、今回が第3回。ICT(情報通信技術)といった情報環境の発達による時代の流れが急速に進行し、建設コンサルタント、建築設計の業務環境も大きな変換時期を迎えている中で、景観・まちづくりのための土木と建築の協働、デザイン、20年東京五輪を控えたインフラ整備の在り方などについて意見を交わし、貴重な情報交換の場となった。
近年の建築と土木の協働について六鹿会長は「土木と建築の協働への挑戦が増加し、環境と景観に影響を与え始めている」と指摘し、虎ノ門ヒルズ(東京都港区)を例に「土木と建築が融合して1つの事業になった。アクロバティックにも見えるが、建築と土木の境目がシームレスとなり、新たなブレークスルーが起き始めている」と語った。
長谷川会長は、両者が連携する上での課題として「エンドユーザーの違い」を挙げ、「土木は公共を前提に設計するが、建築は私(わたくし)のために設計する。土木は発注者と市民が顧客であり、建築が想定する私的なエンドユーザーとの違いをどう一致させるかを考える必要がある」と指摘した。
建設コンサルタンツ協会(JCCA)の長谷川伸一会長 |
その一例としてデザインの在り方に言及し、「土木で景観を考えた時に、機能、安全性を重視した上で、そこに一番マッチングする構造が“構造美”としてデザインも兼ねている」との考えを示しながら、「土木とは自然との融合であり、そこに建築的な思想でデザインする部分が求められるなら、構造美からデザインに特化していくのは、難しくコストもかかるのが実感だ」と語った。その上で「土木は公共インフラであり、安心・安全が優先される。土木がこれから景観やデザインを考えていかなければならないというのであれば、景観を守るために何かが犠牲になるという概念がなければ難しい」とした。
これに対して六鹿会長は「両者は完全に合致している」と強調し、「建築は街区や建物単位で私的なものだが、それが集まると都市という公的な集合体になる。建築は集合体の価値観を受けて一つひとつ設計するので、建築は公共のものだ」と応えた。
また、「土木と建築の両方で都市ができている。土木でデザインを議論するのであれば、景観のデザインという観点から議論すべき」と語った。「安心・安全は最優先だ。ただ、数値化した時にどこを持って良しとするか、社会の進行によってどこをレベルとするかで変わってくる。コストについてはクライアントの価値観もある」とも加えた。
今後、土木と建築が融合する上で大きなきっかけとして両者が注目するのが2020年東京五輪だ。長谷川会長は「新しくつくるインフラとストックされてきたインフラの融合を考えた上で、東京五輪時と終わった後の活用が非常に重要だ」との認識を示した。六鹿会長は「前回(1964年)の東京五輪は今回と違って、土木構築物による景観の変化がものすごく大きかった」とする一方、「その当時はポジティブに受け入れられたが、いまは土木構築物と都市の景観との関係は、冷静に議論されている」と語った。
さらに「今回の五輪は、(前回と)同じような大きな景観の変化はない。しかし、営々と築き上げられた前回の五輪から今回の五輪までの数十年の間に、東京の都市計画が変わっている中で、今回はより良い景観に変えていく可能性がある。その大きなチャンスだ」と訴えた。
長谷川会長は建設生産システムの効率化が要求される中で、「品質と技術力を担保し、継承していくために上流側の技術を担うわれわれの役割はもっと増えてくる」との考えを示した。
「前回から今回の50年の意味と、次の50年を考えると、五輪が終わった後のまちづくりは、IoT(モノのインターネット)やITなど本質的なものが変わるので、インフラそのものも、いまと同じものではないだろう」との見方を示した。
日本建築家協会(JIA)の六鹿正治会長 |
また、土木と建築のストック管理についても話題がおよび、六鹿会長は「“100年建築”をつくることはできるが、都市計画や道路事業といったインフラによって、超高層が壊されてしまう。土木が永遠のインフラでない限りは、建築は砂漠の上の蜃気楼(しんきろう)のような存在だ」と語った。
このほか、長谷川会長は「トンネルや橋梁の設計は建築が行っていると思われている。エンドユーザーとわれわれの接点がない。エンドユーザーのことを考えているが、一般市民の方はわれわれのことを知らない」と建設コンサルの社会的認知度の低さにも触れた。
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