2016/08/01

【水の日】テーマは「私たちの水 日本の水」 ミス日本「水の天使」の須藤櫻子さんが虫明会長に聞く

水資源の有限性、水の貴重さ、水資源開発の重要性について国民の関心を高めてもらおうと、ことしも8月1日の「水の日」と7日までの「水の週間」に、全国でさまざまな行事が開催される。40回を迎えることしのテーマは「私たちの水 日本の水」。中央行事の「水を考えるつどい」は1日、東京都千代田区の科学技術館サイエンスホールで開かれ、水資源功績者表彰や講演などがある。水の日に合わせて水の週間実行委員会会長の虫明功臣氏(日本河川協会会長)に健全な水循環などを聞いた。聞き手はミス日本「水の天使」の須藤櫻子さん=写真。

 須藤 水の天使になりましてから水循環という言葉を耳にするようになりました。きょうは、水循環法、水問題、地球温暖化の影響などについていろいろとお聞かせください。
 虫明 2014年に「水循環基本法」が制定されて、健全な水循環の維持・回復に向けた理念が国民の間で共有されることになりました。昨年には法律に基づいた「水循環基本計画」が閣議決定され、流域を単位とした地表水と地下水、水量と水質を一体とした健全な水循環系構築のいわゆる「流域総合水マネジメント」の施策が動き出しました。
 水循環と人とのかかわり方はいろいろとありますが、われわれ工学的な立場からは利水、治水、環境の保全・回復の3つで考えていまして、流域においてこの3つのバランスが取れて、持続性のある循環をめざすのが基本法の理念です。河川や湖沼の利水、治水、環境を良くするには、流域での水循環を良くしなければならないという理に叶った考えです。しかし、流域で施策を実行するという文化が根付いていないので、法律や基本計画の理念を実現するのは容易ではありません。
 須藤 法律ができても動き出すまで課題があるのですね。水問題をお聞きしたいのですが、簡単な歴史と特徴などを教えていただけるでしょうか。

水の週間実行委員会会長の虫明功臣氏(日本河川協会会長)

 虫明 水問題は時代とともに姿を変えて現れます。特に戦後を通観してみますと、第2次大戦後荒廃した国土の中での連年のような大水害、急激な人口増加と都市集中、工業化と経済発展による水不足と水環境の劣悪化そして都市水害の頻発、これらの問題に対してはそれぞれの分野でハード・ソフト対策を講じることによって、当時の深刻な事態からは脱しています。そして現在では、少子高齢化・人口減少の中での水インフラの老朽化と地球温暖化への対応の問題があります。
 洪水(治水)に関して言いますと、1947(昭和22)年のカスリーン台風から1959(昭和34)年の伊勢湾台風まで、死者・行方不明者が1000人を超える大水害が連年のように続きました。
 環境では、1950年代後半から70年代にかけて、工場排水による水域汚染や公害が全国各地で発生し、工場排水や生活排水の処理が追いつかず河川、湖沼が汚濁していきました。
 利水では、1964年の東京オリンピックの年が大渇水で、小河内ダムが枯渇し、利根川と荒川をつなぐ武蔵導水路を予定を早めて緊急に開通させ、急場をしのぎました。以来、1973年の高松・松江の大渇水、1978年の福岡大渇水など、全国で水不足が頻発します。
 水不足に伴って地下水をくみ上げたため、もう一つ深刻な問題となったのが地盤沈下です。地盤沈下は、地下の砂礫層から取水しますが、過度の揚水をするとその上の粘土層から水をしぼり取り粘土層が収縮することによって起こります。過剰揚水を止めても地盤沈下はほとんど回復しません。こうしたことから、ダムなどの水資源開発の必要性が強く求められたわけです。
 須藤 戦後の深刻な水問題の発生は人口増加と深くかかわっているのですね。地球温暖化についてお聞かせ願えるでしょうか。
 虫明 ここ10-20年ほどの間に短時間(1-3時間)豪雨が毎年のように更新されています。昨年の鬼怒川の豪雨はいままでにはないもので、200年か300年に一度の豪雨のレベルです。これは気候変動による地球温暖化の影響と考えていいでしょう。温暖化によって、豪雨の強度と頻度が増えると言われていますが、そうなると、たとえば現在は堤防やダムなどで100年に一度の洪水からは安全にしようと計画しているのが、温暖化が進めば30-40年に一度のレベルに落ちてしまうということを意味します。
 ですから東日本大震災の経験も踏まえて、土木施設だけでの防災ではなく、住まい方や避難方法など、流域全体で考える「流域治水」の方向に変わらなければなりません。


 須藤 最初に水循環基本法、基本計画の実効性を上げるためには課題があることをお話しいただきました。どのような方向で解決していけば良いとお考えでしょうか。
 虫明 たとえば、河川の上下流域の異なる自治体間で、洪水流出抑制対策あるいは下水の高度処置対策を実施しようとする時、主にその利益を受けるのは、下流域の自治体ですから、下流自治体が上流域の自治体に対策の費用を負担するなどの手法を採らないとなかなか前に進みません。そうした流域連携の法律はできているのですが、流域としてのガバナンスを発揮する仕組みができていないので、未だに法律が適用された例はありません。
 もう十年来、流域水循環健全化を掲げて、計画を立案し実施している流域がいくつかありますが、そうした個々の事例の中で、流域で連携することがその中の各地域でメリットを生むことを見える化して、意識改革を図り、文化圏、経済圏としての流域の復興を視野に入れて、基本法の理念を育んでゆくことが大切だと思っています。
 須藤 本日はとても多くのことを教えていただきありがとうございました。流域単位の考え方、水循環法の理念や課題の一端も分かりました。今後の水の天使の活動に役立てていきたいと思います。

世界の水インフラの発展に貢献できる日本の素晴らしい経験と技術を分かりやすく伝える役割などを担う。特技はテニス、英語。東京出身の大学生。

【16年度水資源功績者表彰受賞者】▽岩手町立水堀小学校リバーキッズクラブ(岩手県)
▽化女沼2000本桜の会(宮城県)
▽特定非営利活動法人道志水源林ボランティアの会(神奈川県)
▽常願寺川沿岸用水土地改良区連合(富山県)
▽西濃地区地下水利用対策協議会(岐阜県)
▽堀川1000人調査隊2010実行委員会(愛知県)
▽入鹿用水土地改良区(愛知県)
▽斐伊川流域林業活性化センター(島根県)
▽サントリービール九州熊本工場(熊本県)

【主な行事】
■水を考えるつどい
▽8月1日午後2時、東京都千代田区の科学技術館サイエンスホール▽全日本中学生水の作文コンクール表彰式・講評、水資源功績者表彰式、基調講演、パネルディスカッション(竹村公太郎日本水フォーラム代表理事、岸由二慶応大学名誉教授など)ほか
■第38回全日本中学生水の作文コンクール
▽「水について考える」をテーマに、水への関心を深めることなどを目的に開催。1日の水を考えるつどいで表彰する
■水資源功績者表彰
▽1日の水を考えるつどいで表彰する
■第31回「水とのふれあいフォトコンテスト」
▽1日の水を考えるつどいで展示する
■水のワークショップ・展示会
▽8月16-18日午前10時から、東京都千代田の東京国際フォーラム

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